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1991年2月5日。
前回のあの敗北から4ヶ月、再び私は熊本を訪れた。
「さっ、始めるですよ」
学生プロレスサークル「熊本商科大学プロレス研究会(以下、プロ研)」メンバーと軽く一杯飲り、皆の溜り場になっているアパートに帰りつくや否や、プロ研8期生のとんぱち3人組は、マージャン卓代わりのコタツ台に、わらわらと牌をばらまき始めた。
プロ研8期生のとんぱち3人組 :
ソープ延長
肥後端喜
スーパー・ストロング・ダッコチャン
私は念のために聞いてみた。
「始めるって、・・何をね?」
「決まっとっじゃなかですか」
「グレート戦に、 決まっとっでしょ〜」
スーパー・ストロング・ダッコチャンくん、肥後端喜くんがいやらしく声をそろえて言った。ソープ延長くんはうひゃひゃひゃと笑っている。おおかた予想はしていないでもなかったのだが、・・やはり、まだやっていたか、グレート戦を。
「あれからノルマがちょっと、厳しくなっとっとですよ」
「ほう・・」
・・あれから4ヶ月、私もそれなりの覚悟はしてきたつもりである。そう何度も負けてたまるか。私はダッコチャンくんに、今回のルールの説明を促した。多少ルールが過激になっていようが、心の準備は出来ている。
「外にはもう、出らんちゃ良かっですけどね」
「うん」
「ハダカにならんといかんとですよ」
「え? ・・ハダカ?」
「はい」
「〜で、ですね。肛門に、何か差さんといかんとですよ」
「え?」
(しまった・・・・・・・・・・・)
私は自分の考えが甘かったのを悟った。この3人組の考えることは、私の想像できる範囲をはるかに越えてしまっていた・・。
「しりに何か差すって、・・誰ね? そんなこと思いついたのは?」
「延長です」
「キミね?」
「オレです」
延長くんはうひゃひゃと笑っている。
「そ、そうね・・」
その時の私の行動は、無駄なアガキとわかっていながら、しゃべって場をつなぎ、勝負の始まりを何とかして先に延ばそうとしているかのようだった。
「まだそれだけじゃあ、無いとですよ」
前回と同じように、瑞喜くんがつけ足した。3人組にとっては、私の狼狽などお構い無しだ。
「それでこの " お立ち台(コタツ)" の上でパフォーマンスをやるんですけどね。その時にですね、勃起させとかんといかんとですよ」
勝負が始まった。
まさか、ここまで過激なルールになっていようとは、・・などと後悔していてももう遅い。要は、いちばんビリケツにさえならなければ良いのだ。ドベさえ引かなければそれで、無罪放免なのだ。
それにしても、普通はマージャンは4人の面子でトップを競い合うゲームなのだけれど、こういう取り決めでやっていると、闘いの内容が全く普通では無い。ただの1回でも振り込んでしまうと" ビリケツに近付いてしまう " というプレッシャーが物凄く、7〜8巡も過ぎると、テンパイしている、いないに関わらず、みんな勝負を降りてしまっているのだ。
私は緊張感に耐えかねて、気分を変えようと卓から目をそらした。周りを見渡すと、それまで気にとめていなかったのだが、部屋の床のあちこちに、妙にこの部屋にそぐわない、茎の長い「花」がポロポロと散らばっている。花など、プロ研で試合をやる時の入場セレモニーの時くらいしか、このメンバーには関わりのないもののはずだが・・。私はとても不安な気持ちになって、ちょっと延長くんに聞いてみた。
「なあ、延長よ。・・ここにいっぱい落ちている花、・・これ、まさか、・・・しりに、差した?」
「はい、差しましたよ」
延長くんは事も無げにそう答えた・・・。
そして私は敗北した・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「まだですかー?」
「もう待ちくたびれたですよ」
「早よ、早よう」
3人組の催促の声を聞きながら、私はフスマを閉めた隣の部屋(台所)で 〜
「これで勃ててください」
〜と渡された九スポ(「東京スポーツ」九州版/エロ記事面)を片手に、懸命に息子を勃てようとしていた。
「いや、スマン。・・まだ、勃たないんだよ・・」
こんな状況でほいほい勃ってしまうほど、私は豪の者ではない。皆はどうだったのか、ちょっと聞いてみた。
「ボクは、半勃ちだったです」
肥後瑞喜くんがさわやかに笑って答えた。瑞喜くんは普段から笑顔のさわやかな男だが、なんでこんな時にまでさわやかなんだ、と私は恨めしくなった。
プロ研創成期の頃に私が提唱した、プロ研の鉄のオキテとして、やるからにはぜったいに " 観客にウケなければならない " というのがある。パフォーマンスの出し物はとりあえず、ジュディ・オングの『魅せられて』に決めたが、あと、しりに何を差せばウケるかが、まだ考えつかない。・・よりによって、今ごろになって自分がこのオキテに苦しめられるとは。それよりも何よりも、一向に勃たない。
「まだですかー?」
「寂しか〜」
「まだ勃たんとですかー?」
「わ、分かった、すぐ勃てるから・・」
3人組の催促の矢が、次々と私に向かって放たれた。
「『プロ研魂』ば、早よう、見せてくださ〜い」
「見せてくださ〜い、『プロ研魂 』ば」
「『プロ研魂 』ば」
『プロ研魂』という言葉は、下級生が目上の人間を追い込む時に、まるで " 呪文 " のように使われてしまう言葉だ、とそう感じながら、私は息子を勃てるために一心にに右手を動かし続けた・・・。
私は3人組のおかげで、この日、人として大切なものを失ったのだった・・。
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